和族遥かなる旅路Ⅱ

タイ族編 第14話 - 滇王国

インたちは昆明の滇池(てんち)に到着しました。黄河からここに移住して来た和族は、黄河時代のままの母系社会で、巫女を中心に稲作・漁労の生活をしていました。中国大陸屈指の青銅器文化を築き上げ、人々は機を織り子安貝を蓄え、生贄の習慣まで昔のままでした。

[ヤー]びっくりしたでしょう。まるで父や母の時代に戻ったみたい。私も着いた時、驚きました。
[イン]叔母様、ご無沙汰していました。しかし、この青銅器の精密さは、流石に和族の子孫ですねぇ。

[ヤー]そちらはヌンですね。お元気そうで。
[ヌン]・・・。

ヌンは感極まって言葉が出ません。長江の村での出来事が走馬灯のように駆け巡ります。

[ヤー]モーナの姿が見えませんが、どうされました?
[イン]モーナは、我々と別れて台湾に渡りました。

[ヤー]そうですか。みなさん、中国大陸から離れて行きますね。それも致し方無い事かも知れません。
[イン]はい・・・。


インとヌンは邑を見て回りました。

[イン]和族以外にも、ワ族・イ族・苗族・・・、いろんな民族が仲良く一緒に暮らしている。
[ヌン]これが、本来の姿なんだよなぁ。

[イン]おい、藁(わら)を混ぜて日干煉瓦を作っているぞ。これだとひび割れしないから長持ちしそうだ。煉瓦だって7,000年前に黄河の和族が作り始めたものだ。
[ヌン]あぁ、中流域で始まったと聞いた。土器作りと切っても切り離せないからな。

[イン]お、夜郎(やろう)族もいる。夜郎族は、元々チベット高原の遊牧民で、中国大陸では珍しく牛の牧畜をしている民族なんだ。今じゃ雲南全域に住んでいる。彼らは、伝統の醗酵技術を生かして、枸醤(枸の実でつくった味噌・醤油の原型)や、滇池の鱒(ます)と米を乳酸発酵させて熟れ鮨を作っているんだ。どちらも夜郎族の特産品だぞ。
[ヌン]これは、今までに無かった味だ。美味い。それに保存も効く。タイ族も作り方を覚えたいなぁ。

[イン]後で夜郎族に頼んでやるよ。
[ヌン]あぁ、頼む。

[イン]農機具を見てみろ、青銅製のほかに鉄製のもある。家具や装飾品の多さと彫刻の表現力。ロクロと彩色された薄い土器。土器に布を貼り付けて補強する技術。どれ一つをとっても一級品だ。
[ヌン]うん、我々より遥かに進んでいるな。なぁ、イン。こんな辺ぴな場所で、漢王朝の中原より文化が進んでいるってどういう事だ?

[イン]そこが、この中国の問題点なんだよ。いずれ此処にも視察団が来て、中央に報告する。そうなると、権力と武力で統治して、中国の土地だ文化だと主張する。それが何も持たない新興民族のやり方だ。
[ヌン]それで、みんなやる気を無くしたり、去って行ったりする訳だ。


インとヌンは、ヤーの家に戻って今後の事を相談しました。

[イン]私とヌンは、西南端の永昌に都市国家を造ろうと思います。
[ヤー]そうですか、いよいよ父の言った最後の時が近づいているのですね。

[イン]いえ、まだそうと決まった訳ではありません。あそこには、ヤー叔母様が暮らしていた阿倭山があります。我々倭族の原点です。此処で何かあっても、永昌を確保していれば、まだ阿倭山で暮らせます。
[ヤー]阿倭山の洞窟は、母と私が父を探して旅立った場所です。目的が達せられた今、また、そこに戻るのも良いかも知れません。インに任せます。

久しぶりの再会で、夜は国を挙げての大宴会になりました。民族のご先祖様が帰って来たのです。滇王国にとって、これに勝る喜びはありません。かがり火を焚き牛酒(食事と酒)が運び込まれ、ヤーと巫女を中心に全員が酒席を囲みます。まるで隠れていた太陽が再び昇ったかのように、太鼓を打ち鳴らして踊り狂います。

[イン]こんなに喜んでくれるとはな。
[ヌン]あぁ、お前のやる事はいつも的を得ている。苦渋の決断の連続なのに、常に最善の選択をして自ら決行する。とても俺には真似が出来んよ。

[イン]おい、この酒は米で作ってあるぞ。
[ヌン]うん、果実酒でも無ければ薬用酒でもない。明らかに酒宴用の酒だ。

[イン]驚いたな。青銅製の容器で漆塗りの杯に醸造酒を注ぎ、牛肉・枸醤・熟れ鮨・山海の珍味が所狭しと並ぶ。何という文化だ。
[ヌン]あぁ、今までの中国大陸には無かった文化だ。

[イン]ここは和族の最後の邑だ。もし、和族がここから撤退するようなことがあれば、中国大陸の文化は止まってしまうかも知れん。
[ヌン]・・・。

[ヌン]なぁ、イン。なぜ和族は、こうも簡単に全てを渡して中国大陸を去って行くんだ。どう考えても勿体無いだろう。

[イン]さぁ、そこのところは俺にもわからない。ただ一つ言える事は、和族は人と争うのが嫌いだという事だ。物欲が無いから欲しければあげる。そこには、いつでも出来るという自信と、揺ぎ無い精神があるのだろう。
[ヌン]ラオーは、「逃げる所が有ったら戦わずに逃げろ」と言った。これは中国大陸にも固持するなという事かも知れないな。高砂族のモーナはそれを理解していたから、台湾に渡ったんだ。

[イン]それが60,000年という、和族の歴史の重みなんだろな。
[ヌン]と言う事は、タイ族が追い着くには、後40,000年掛かるという事か。

[イン]あぁ、和族が先に進んでいなければな。はははははっ。

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