和族遥かなる旅路Ⅱ

タイ族編 第11話 - 周王朝

建国当初の周王朝は、長安を首都として、中国大陸最初の法令による統治を行いました。周辺諸侯や朝貢してくる邑を直接統治せず、自主性を尊重しました。その為に犯罪者は少なく、国家の理想的な政治形態と称されています。その周王朝から、長江の和族の邑にも使者が着きます。

[イン]朝貢せよだと。
[ヌン]イン、どうする。

[イン]周族は、俺たちと同じチベット系倭族だ。評判もすこぶる良い。しかしここは、50,000年前からラオーたち和族と俺たち倭族が住んできた邑で、今は諸民族と共に平和に暮らしている。先住民は、誰にも遠慮せずに、そこで暮らす権利がある。喧嘩する気は無いが、朝貢する理由も無い。
[ヌン]うん。

インは、周王朝の使者を丁重に送り返します。

[ヌン]インは凄いな。言いたい事をちゃんと言う。
[モーナ]あぁ、立派だ。使者の首を狩らなくてよかった。
[ヌン]・・・。

[イン]周族が攻めて来る事は無いと思うが、警戒は怠るなよ。
[モーナ]分かった。


周王朝は、和族の邑に再び使者を遣わします。

[イン]友好を結びたいと。周族は善政を行い、和族・夏族と引き継がれてきた亀甲文字を国内外に広めて中国の正式な文字とした。おそらく宮中にも山野にも、沢山の知識人がいるのだろう。
[ヌン]俺たち農耕民族には良く分からないけど、一般庶民まで文字が普及すれば、国は発展する。

[イン]モーナ。お前はこの邑の使者として、周の皇帝に親書を届けて来てくれ。
[モーナ]俺が?

[イン]あぁ。お前なら、何が有ろうと相手が誰であろうと気後れせんからな。朝貢はしないけど、この不老長寿の"霊芝"を、友好のしるしとして献上してくれ。立派な皇帝には長生きして貰いたいとな。
[モーナ]分かった。

モーナは、旅支度をして、周王朝の使者と共に長安の都に向かいました。

[イン]あいつなら大丈夫だ。
[ヌン]うん。あいつは、ラオーの気持ちを一番知っているからな。ところで、見知らない人が、毎日のようにじっと子供たちの童歌(わらべうた)を聴いているね。

[イン]あぁ、俺も不思議に思って聞いてみた。何でも周の学者らしくて、ここらの童歌を文字に書き写しているんだと。倭族の童歌はな、昔から子守唄のように歌い続けられてきたものだ。かつて民族に起こった出来事が、歌に綴られているんだよ。それを文字で残そうなんて、大した学者だと思わないかい。
[ヌン]へぇ、学者のやる事は分からんね。

[イン]すっかり仲良くなって1冊貰ったんだ。ちょっと教えてもらったんだけど、ほら、山とか川とか、見ただけで簡単に解る。
[ヌン]文字が読めれば、誰でも、先祖たちがやって来たことが分かるわけだ。

[イン]夏がやった事は商が記し、商がやった事は周が記している。今の時代の人間が幾ら歴史を捏造しても、次の時代の人間が真実を書けば恥を残す事になる。
[ヌン]未来の人の口は塞げないからな。


二ヶ月ほどして、周王朝へ使者に出ていたモーナが無事に帰って来ました。

[イン]ご苦労さん。どうだった。
[モーナ]滞りなく役目を果たしてきたよ。皇帝は大喜びして歓迎してくれた。すぐ帰る積もりだったんだけど、その度に引き留められてな。帰る時にお礼を預かったよ。翡翠(ひすい)の玉だそうだ。

[イン]おぉ、これは日本列島のものだな。日本列島の和族は、5,000年前に世界で始めて翡翠で勾玉や宝玉を作った。向こうでは、"ひすい"とか"かわせみ"と呼ばれている。中国では産出しないから超貴重品だぞ。
[モーナ]へぇ、そんなに貴重品なんだ。どうりで、わざわざ護衛と人夫まで付けてくれたはずだ。

[イン]あぁ、皇帝も、和族の邑の近くに首狩り族が出没するのを知っていたんだろう。
[ヌン]はははははっ。
[モーナ]・・・。

夜は、モーナの壮大な帰還祝いになりました。

[モーナ]やっぱり米の飯は旨いなぁ。向うじゃ粟飯ばっかりだった。新鮮な魚は無いし、出て来るのは豚と羊ばっかし。乳なんて生臭くて飲めたもんじゃない。
[イン]まぁ、そう言うな。お前は重要な任務を果たしてくれた。下手すれば皇帝と刺し違える覚悟だったろう。

[モーナ]あぁ、元々その積もりだった。皇帝はできた人でな、俺を下にも置かない歓迎をしてくれた。宴会は連日連夜。酒も旨かった。
[イン]うん、あの翡翠の玉を見ればわかるよ。あれは周一族や后に贈る物だ。そんじょそこ等の諸侯に贈る代物ではない。よっぽど皇帝に気に入られたようだな。

[モーナ]そんな事よりな。長安の酒楼には胡姫と呼ばれる異民族の踊り子がおってな。色が白くて金髪で目は緑色なんだ。それが薄い絹の服を着て、胡旋舞を踊りながら酒を注いでくれるんだ。まさに長安の春よ。俺は毎日そこで接待されたんだ。あれが無かったらすぐに帰っていたな。はははっ。
[イン]やぁ、それは男冥利に尽きるな。ここは母系社会だから、余り大きな声では言えんがな。

[モーナ]酔っ払った帰りに気がついたんだけどな。長安には胡族の男や子供もいる。何処かに胡族の村ができているんだよ。俺はツングース系の商族を思い出した。これからもまた、異民族が根を生やしてまた牙を剝くんじゃないかとな。
[イン]あぁ、十分に考えられる。


モーナの予感は当たっていました。周族の故郷の渭水では、すでに秦族の邑が勢力を拡大していて、皇帝の曾祖父太公望は、その長男と次男のいる岐山(きさん)の倭族の邑に移っていました。岐山は黄河支流と長江支流に挟まれた要所で、ラオーと小麦の娘ヤーのいる水田稲作発祥の地です。長男も次男も倭族に影響され、すでに全身に刺青を入れています。皇帝が長江の和族の邑に、特別な敬意を示したのはその為でした。

周王朝は次第に衰退し、12代幽王が亡くなると西周と東周に分裂して戦います。東周は洛邑(洛陽)を都にして一度は勝利しましたが、権威だけの王朝に成り下がってしまいました。東周の最後の皇帝は、西周を頼り華南に遷都しますが、時すでに遅く、秦族に滅ぼされてしまいます。

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