和族遥かなる旅路Ⅱ

タイ族編 第10話 - 商王朝

[イン]おい、夏王朝が商族に倒されたらしいぞ。
[ヌン]うん。俺もさっき苗族から聞いた。やつらは強暴だ。このままじゃ済まんぞ。

400年続いた夏王朝は、商族の裏切りによって滅亡しました。商族の素性もはっきりしませんが、卵伝説を信奉し、都を何回も変えている事などから、土地に執着しない草原遊牧民族の契(せつ)族のようです。契族は、馬に乗り弓矢に長けていることから、モンゴル系とツングース系が交わって派生した民族なのでしょう。滅びた夏の一族は、生まれ故郷の黄河上流に帰って行きます。

商王朝の時代になると、難民が急増します。夏王朝の支配地域をそっくり継承した商王朝は、商業を推進し、権力と武力を背景に農耕民族からの略奪に明け暮れます。

[モーナ]あにー、また苗族の難民だ。
[イン]あぁ、どんどん入れてやれ。ヌン、新しい村を作ろう。
[ヌン]うん。もう作り始めているよ。タイ族の村の隣だ。苗族もみんな手伝ってくれている。

ヌンは、苗族の水田も作り始めました。

[ヌン]籾を持ってきたぞ。さぁ、みんなで蒔くんだ。均一にな。秋になれば食べ切れないほどの米が収穫できる。それまでの辛抱だ。水田の周囲で野菜を摘み、魚を捕って食い繋ぐんだ。

ヌンは、和族に教えてもらった全てを苗族に伝えました。余っている土器や農耕の道具も持ってきました。ヌンは、タイ族が黄河から逃れて来た時の事を思い出していました。小麦とヤーが笑顔で差し出してくれたおにぎりが、有難くて美味しかった事を今でも忘れていません。そして今、ラオーの気持ちがはっきり解りました。人に何かをしてあげるということは、理屈じゃないんだ。したいからしているんだ。

その後も難民は続きますが、インもヌンもどんどん受け入れます。その度に新しい村が増え、稲作文化は益々発展します。道案内のモーナも大忙しです。

しかし、長江流域が発展すればするほど、商王朝の目に付きます。長江下流の南岸でも、一つの邑が商王朝に朝貢しました。

[イン]馬鹿だよなぁ、その内みんな持って行かれて、奴隷に成り下がるぞ。
[ヌン]商から使節が来て、条約を結んだらしいよ。
[モーナ]・・・。

実は、この邑にも商王朝からの使節が来たのですが、そうとは知らずにモーナが、首を狩ってしまったようです。


商族は、馬車立ての戦車を数百輌所持し、弓と青銅製の矛や戈で武装した兵が乗り込み、周囲を歩兵が護衛する戦術を編み出します。夏王朝を倒したのも、この戦車隊でした。

商王朝は、夏王朝の文化をそっくり継承し、祈祷にのめり込みます。祈祷には、数千人の生贄が捧げられる事も珍しくありませんでした。その生贄の多くは、夏族の出身部族である羌(きょう)族でした。

商業に力を注ぎ、それまでの通貨である子安貝(宝貝)を宝物として溜め込んだ為に、流通が滞ってしまい、替わりに青銅製の殷貨を発行します。この殷貨は、貝の道を通って日本海沿岸の邑にももたらされています。夏王朝から引き継いだ祈祷は益々呪術化し、皇帝は最高祈祷師の座につきます。そういった権力構造の基で、宮廷内での亀甲文字が確立して行きます。

国内では、権力維持の為の軍備が増強され続け、武力行使や搾取が横行します。周辺諸国の不満は高まり、国土は衰退して行きます。幸い、商王朝が内部搾取に明け暮れたため、今回も長江流域にはあまり影響が及びませんでした。

[イン]何やってんだい。
[ヌン]あぁ。稲刈り用の石鎌を作っている。苗族の話によると、黄河では粟(あわ)を刈るのに研磨した石鎌を使っていたそうだ。これだと根元からまとめて切れる。石包丁で穂だけを刈るよりずっと早い。稲刈りでも使えるかなと思って。

[イン]へぇ、それはいい。お前、だんだんラオーに似てきたな。
[ヌン]いや、それはまだまだだ。

ヌンは、ラオーに似てきたと言われて嬉しかった。技術や発想はとても追い着けないが、物事に対する考え方が同じになってきたとは感じていた。俺は、ラオーの精神を引き継ぐんだ。イ族も苗族も高砂族も、自分たちの民族性を生かして頑張っている。タイ族だって負けてはいられない。


商王朝の横暴に、周族は天下の諸侯に檄を飛ばし、大邑商(商の首都)の近くの牧野で皇帝紂王の大軍と対峙します。商は大軍とはいえ、ほとんどが商に不満を持つ奴隷や周辺諸国の諸侯でしたから、戦いが始まると自軍に襲い掛かりました。牧野の戦いにあっさり勝利した周族は、一度撤退します。紂王は、都を朝歌に移して逃れます。周族は再び立ち、商の首都朝歌を攻め落とします。ここに商王朝は600年の歴史を閉じます。紂王の叔父箕子は、商の遺民を率いて朝鮮に渡り、箕子朝鮮に封じられます。

[イン]そうか、商も滅びたか。力で制する者は力で滅びる。
[ヌン]うん。だからラオーは、逃げる所が有ったら戦わずに逃げろと言ったんだね。民族が存続し土地さえ有れば、他人と争わなくても農耕・漁労・狩猟で生きて行ける。それが人としての基本なんだ。盗む民族は永遠に盗みと滅亡を繰り返す。黄河でも和族はあっさりと去った。悔しかっただろうけどな。和族は、その悔しさを腹の中に収めて外には出さない。いざと言う時まではな。モーナは、和族と気が合うから良く解るだろ。
[モーナ]あぁ。

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