和族遥かなる旅路Ⅱ

タイ族編 第1話 - 回顧

今から5,000年前、中国大陸を悠然と流れる大河長江の下流。

約50,000年前に和族が初めて中国大陸に到達して以来、三皇と呼ばれる天皇・地皇・人皇は、共存して平和に暮らしていました。しかし農業が発展して蓄財が進むと、人々の間で争いが始まります。世は三皇五帝の時代に突入していました。

タイ族の始祖ヌンは、田んぼのあぜ道に腰を掛け、黄金色に輝く稲穂の波を眺めながら、民族の辿(たど)って来た道に思いを馳せていました。此処まで導いてくれた和族の始祖ジー、その娘で倭族の始祖ヤーも何かと優しくしてくれた。

[ジー]ヌンよ。ここは、稲作が出来る豊かな村になった。ここを引き継いでくれ。俺と小麦は、日本列島に渡る。ヤーは、長江中流域の倭族の村へ戻れ。イ族は、タイ族と新たに加わった高砂族を守れ。
[ヌン]おじさん・・・。いや、"ラオー"。あなたの恩は一生忘れません。

[ジー]いいか、ヌン。お前達は農耕民族だ、相手とは絶対戦うな。逃げる所が有ったら何処までも逃げろ。逃げる場所が無くなったら、そこで初めて戦え。全員の力を結集して。
[ヌン]ラオー・・・。

シベリアのアルタイ山脈の麓で約20,000年前に誕生したタイ族は、寒冷化に適応する前に南下を始めます。自分たちの民族に適した土地を探すためです。その時に同行してくれたのが、和族のジーでした。彼は、草原地帯で定住地を見つけられなかったタイ族を黄河流域の和族の村へ案内してくれ、定住を勧めてくれました。そこは野生の粟(あわ)やキビが実り、川や海の資源が豊富な土地でした。

黄河流域は陸と海の要所で、ここから和族がシベリア・チベット・日本列島へと渡って行きました。ヌンはそれを見送りながら、村に残った和族や苗族と共に粟やキビの穂を摘みます。ヌンは幸せでした。暖かで穏やかな気候は、タイ族にとってぴったりでした。ずっとずっと夢に描いてきた土地です。

村の和族たちは、粟やキビの栽培方法も教えてくれました。家の近くを耕して畑にし、乾燥地帯に自生している穂から種を取って来て撒くのです。直播(じかま)きですが、収穫が今までの何十倍にも増えました。しかも、わざわざ遠くに行かなくても、育ち具合を見たり収穫が出来るようになったのでした。

粟には夏粟と秋粟があり、それぞれにうるち粟ともち粟があります。彼等は、それらの食性を生かして、雑炊・粟餅・粟麺にして食べました。収穫が年に二回できるのも大きな魅力でした。

和族・苗族・タイ族の村は、垣根一枚で隣接していましたが、皆平等で争い事は皆無でした。お互いの民族の持ち味を活かし、協力し合いながら平和に生活していました。収穫が増えるに従って人口も増え、村は少しずつ大きくなって行きます。

畑を耕して筋蒔きにすると、更に作業の効率が上がり、収穫も増えました。村々は更に豊かになり、外からの人口流入も増えてきました。今まさに中国大陸の中原に黄河文明の基礎が築かれたのです。

このときの、和族・苗族・タイ族の伝説は、後に道教や仏教に引き継がれ、三皇(天皇・地皇・人皇)として神格化されます。天皇は、世界で最初の女性である太元聖母から生まれたとされ、髭が生え全身が鱗(うろこ)に覆われていたといいます。地皇は、頭に鶏冠があり体は羽毛が覆い鶏の足のような腕を持った鶏人間に。人皇は、たて髪の生えた蛇に比喩されています。

後日、三皇が合わさって竜神となります。

黄河文明の始まりは、同時に中国大陸での侵略・略奪の歴史の始まりでもありました。世界の農耕文明がそうであった様に・・・。

黄河流域は、他の遊牧民族に対抗する為に、チベット系遊牧民族の黄帝によって武力統治され、苗族の村が支配下に置かれます。自由奔放に生きてきた和族とタイ族はこれを嫌い、一部の和族は遼東半島を経由して朝鮮半島や日本列島に渡り、また一部の和族はタイ族と共に長江下流へ逃れます。これ以降の朝鮮半島は、中国大陸で戦争が起こる度に、敗れた民族の避難民流入地帯になります。

ジーは、長江の村でもタイ族を快く迎えてくれました。その代わりに、悲しい別れが待っていました。ジー一家は、最終目的地の日本列島へ向かって旅立ったのです。ヌンはその日からジーをラオー(ラワ族の王)と呼びました。タイ族の恩人を永遠に忘れない為に。

[イン]ヌン。何を考えている。
[ヌン]あぁ、インか。・・・ラオーの事を考えていた。ラオーは、この豊かな土地に住まわせてくれただけでなく、お前たちイ族に守らせてくれている。何故そこまでしてくれるのか、俺は未だに解らない。

[イン]それはな、ラオーが、お前たちならここを任せられると思ったからだよ。
俺もそう思う。お前達しかいない。
[ヌン]・・・。

ヌンは、タイ族が黄河からここに逃れて来た夜の事を思い出していた。

[小麦]さぁ、お腹空いているでしょう、お食べなさい。

小麦と娘のヤーが、優しい笑顔を浮かべて差し出したのは、竹の皮に包まれたそれまでに見た事のない真っ白い米のおにぎりでした。その小麦もヤーも、今はもういない。

[ヌン]なぁ、イン。戦争って、何故起こるのだろう?
[イン]そこの土地と民族を奪いたいからさ。
[ヌン]・・・。

[イン]心配するな、俺たちが必ず守ってやる。俺たちはラオーの子孫、犬族だからな。
[ヌン]犬族?
[イン]あぁ。ラオーの周囲には、いつも犬たちがいただろ?何時の頃からか、俺たちは犬族と呼ばれるようになった。俺は、それを誇りに思っている。

[イン]そろそろ、田んぼの見回りに戻るか。
[ヌン]うん。

二人は立ち上がって、大きく背伸びをした。

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